月刊ほんナビ 2024年7月号

📕 「夜空を見上げた人が生み出したもの」

紹介:原智子(星ナビ2024年7月号掲載)

『天空の庭』(Amazon)

大規模な太陽フレアの発生により、普段はオーロラの見えない日本や世界各地で低緯度オーロラが観測され、大いに話題になった。スマートフォンを含めてカメラ技術が向上し、肉眼では見えにくいタイプのかすかなオーロラも撮影できるようになったことを実感した。そんな貴重な天文現象を記録した写真や、文句なしに美しい天体写真を収めたKAGAYA氏の最新本『天空の庭』が4月に発売された。4年ぶりとなる写真集には、2023年12月1日に北海道で撮影されたオーロラもしっかり掲載されている。「星花雪月」の章では草花と星による物語のワンシーンが、「天空を映す」の章では水鏡に夜空が反射した静寂が、「天空の贈り物たち」の章ではめったに出会えない一瞬のキラメキが、KAGAYA氏ならではの感性で切り取られている。高精細印刷と特殊インクによってオリジナル写真そのままに再現されたページをめくり、“天空の庭”で繰り広げられるドラマをゆっくり眺めよう。作品タイトルや撮影データは最後にまとめて表記されており、写真を鑑賞した後に詩のようなコメントを読むのも味わい深い。

『ゴッホが見た星月夜 天文学者が解き明かす名画に残された謎』(Amazon)

絵のように美しい写真集に続き、本物の絵画と天体の関係を調べた本を紹介する。『ゴッホが見た星月夜』は、副題の「天文学者が解き明かす名画に残された謎」という言葉どおり、ゴッホの絵に描かれた月や星が実際の夜空ではどうなっていたのか検証する読み物。表紙デザインに採用されている『星月夜』は、大きなイトスギ、渦を巻いた夜空、印象的な黄色く細い月、明るい大小の星々が描かれたインパクトある作品。天文ファンなら「この月や星は実際の位置なのか⁉」とつい考えたくなる。筆者もオルセー美術館で『ローヌ川の星月夜』を見たときに「この北斗七星は実際にゴッホが目にしたままなのか」と気になった。ゴッホは妹に宛てた手紙に「ぼくはいま、星空を描きたくてたまらない。よく思うのだが、紫や青や濃い緑に彩られた夜のほうが、昼間よりも色彩が豊かだ」と書いている。友人や弟テオにも同様の手紙をいくつも出しているので、彼にとって夜空は特別な景色であり、月や星は魅力的なモチーフだったはず。この本では天文シミュレーションソフトで絵画と実際の天体位置を比較しつつ、ゴッホの心情にも迫っている。昨今よく行われる“写真合成技術”ではないが、ゴッホの“絵画的合成技術”には感服する。彼が無類の芸術家であることが、改めてよくわかる。

『天文学史と長久保赤水』(長久保赤水顕彰会)

同じように星空を眺めながら、江戸時代の庶民にも役立つ地図を制作したのが長久保赤水。これまでも当コーナーでは、彼の偉業を伝える書籍『長久保赤水の天文学』と絵本『小わく星ナガクボ』を紹介してきた。今回の『天文学史と長久保赤水』は、地元の偉人である赤水の功績を学ぶ市民講座のテキストを大幅に加筆し書籍化したもの。第1章と第2章で世界と日本における天文学史の流れを紹介し、そのうえで第3章「長久保赤水の儒学と天文学」を書いている。つまり「長い天文学史の中で彼の功績がどんな意味を持つのか」を紹介しているのだ。儒学者でもあった赤水だからこそ、天文学の知識を生活にも役立たせたいと思った。そこが、単なる科学者と違うところだろう。長久保赤水顕彰会が望むように、彼の存在がもっと多くの日本人に知れ渡り、いつか大河ドラマで赤水の人生全体を見てみたい。

『創元SF文庫総解説』(Amazon)

サイエンスに関係するドラマといえば、SFだ。『創元SF文庫総解説』は、現存する日本最古の文庫SFレーベル「創元SF文庫」の60周年を記念して発行された公式ガイドブック。フレドリック・ブラウンの『未来世界から来た男』から2023年6月発刊の最新作まで、800冊近い書誌情報とレビューを掲載している。さらに、草創期の秘話や装幀をめぐる対談、SFマーク誕生などの概説、文庫以外のSF作品紹介も収められている。巻頭8ページには全作品の初版カバーがフルカラーで掲載され壮観!「懐かしい」と感涙にむせぶ人も多いのでは。

『星空マップ 星座と天体観測入門ガイド』(Amazon)

最後に、今から星空を見上げたい天文初心者向けに『星空マップ』を紹介しておこう。美しい写真と精密なイラストで星空観察のハイライトを教えてくれるムック。「恒星と惑星」「季節を彩る星々」「星座の見どころ」「魅惑の天体ショー」「天空を目指す人類」の5つのテーマで構成された天体観測入門ガイドブックだ。

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